消化器内科で診療を行っている疾患は非常に幅広く、がんや炎症性腸疾患などの器質的疾患だけでなく、機能性疾患の患者さんも診療に当たっています。機能性疾患とは、臓器に器質的な異常が無いにも関わらず、自覚症状がある病態を指し、消化器内科の分野では機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群に代表されます。自律神経のバランスの乱れやストレスなどが原因となっていることが多く、なかなか理解してもらえない辛さがあります。私達は大学病院ならではの専門的な検査を行い、患者さんの病態に合わせた治療を心がけています。
機能性消化管疾患
機能性消化管疾患 (Functional gastrointestinal disorders; FGIDs) とは、胸やけや腹痛、便通異常などの消化器症状を有するにも関わらず、諸検査でその症状を説明可能な器質的疾患を認めない疾患の総称です。代表的な疾患として、機能性ディスペプシア (FD)、過敏性腸症候群 (IBS)、非びらん性胃食道逆流症 (NERD) などが挙げられます。FDは主に胃もたれや心窩部痛などの上腹部症状が主訴であり、IBSは腹部膨満感や排便回数の変化、便性状の変化を認めます。NERDは炎症所見がないにも関わらず胸やけ症状を認めます。一見すると全く別の疾患に見えるかもしれませんが、実際には左図のように互いにオーバーラップすることもしばしば認められます。その為、個々の症例に合わせた治療を行っていくことが重要です。
食道運動障害
胸やけや嚥下困難感を訴える患者さんの一部では、食道運動障害が原因の場合があります。これは食べ物を嚥下した後に正常な食道運動が行われない疾患の総称であり、食道アカラシアやびまん性食道痙攣などの疾患が含まれます。上部消化管内視鏡検査や食道造影検査だけでは診断が難しく、高解像度食道内圧検査 (High-resolution manometry; HRM) が診断に有用です。HRM は鼻から直径約 4mm の圧センサーがついたチューブを胃内まで留置し、水分を嚥下しながら食道運動を評価する検査です。当院では HRM を積極的に施行(2020 年:26 例、2021 年:23 例)しており、詳細な病態把握が可能です。
胃食道逆流症
胃食道逆流症 (gastroesophageal reflux disease; GERD) とは、胃内容物の食道への逆流により臨床症状や合併症を生じた病気の総称です。もともと GERD は欧米に多い疾患でしたが、最近日本でも増加しています。GERD の中でも、内視鏡検査で実際に食道に炎症所見が見られる逆流性食道炎の他に、内視鏡では炎症所見が見られないのに胸やけ症状が存在する場合もあり、NERD と呼ばれています。実際に胃酸がどの程度食道に逆流しているかを評価する方法として、24 時間食道 pH モニタリング検査が行われます。この検査は、鼻から直径約 2mm の pH センサーがついたチューブを食道まで留置し、そのまま測定器を携帯していただきながら普段通りの生活を 24 時間送っていただき、食道内のpH の変動を解析することで胃酸逆流の有無、程度を評価する検査です。また酸逆流と症状が実際に関連しているかどうかも評価することが出来ます。
胃十二指腸潰瘍、H.pyroli感染
胃潰瘍、十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜に炎症が起きた結果、粘膜の一部がただれている状態です。症状としては腹痛、吐き気、嘔吐や場合によっては吐血、黒色便が見られることもあります。潰瘍をきたす原因の代表として、ヘリコバクター・ピロリという胃に感染する細菌が挙げられます。最近では除菌治療が普及し患者数は減少傾向にありますが、ピロリ菌陽性の患者さんには除菌方法や副作用などについてしっかりと説明したうえで、除菌治療を推奨しています。その他には NSAIDs と呼ばれる解熱鎮痛剤によるものや、ストレス、喫煙なども発症に影響すると考えられています。